デザインと技術の交差点で。東京出身のデザイナーが舞鶴の地で見つけた新しい働き方
2025/12/12
3Dプリンタを操作している…らしい。でも何をしているのかは、正直よくわからない。
VONTENメンバーの間で“謎の存在”として親しまれている田中さんは、普段自分から心の内を見せるタイプではない。東京出身でありながら、なぜか今は舞鶴で働いている。その選択の背景には、デザインとテクノロジーの狭間で模索し続けてきた彼ならではの視点があった。
最先端の技術と向き合いながら、なぜあえて地方を拠点にするのか。田中さんのこれまでとこれからを聞いた。
目次:
・技術と情報の橋渡しを担う“越境型デザイナー”
・デザインに“科学”で向き合った学生時代と、舞鶴に流れ着いた偶然
・地方で働くということ:「なんでもやれる」自由さと、言葉へ定義
・「どこでも働ける」状態をつくる実験
技術と情報の橋渡しを担う“越境型デザイナー”
VONTENの立ち上げから携わり、クライアントワークにおける情報整理、提案資料の作成、展示空間の設計や3Dプリンタを活用したプロダクト制作など、多様な業務を担っている。社内ではプロジェクト管理や情報共有の仕組みづくりも行い、裏方としてもチームを支える存在でもある。
「一言で“デザイナー”とは言い切れない役割かもしれません。出てきた情報を整理し、実際の“モノ”に落とし込んでいく。その橋渡しをしている感覚があります」
彼の仕事は、グラフィックからプロダクト、空間設計にまで広がる。地道なリサーチや検証を重ねる日々だが、「誰もやったことがないことに挑戦できる面白さがある」と語る。
デザインに“科学”で向き合った学生時代と、舞鶴に流れ着いた偶然
東京・国立市で育ち、幼い頃からブロックやお絵かきが好きだった田中さん。高校は美術系へ、通常の美術に加えてデッサンや工芸の授業もあった。大学では工学系のデザイン学科に進学し、デザインをするだけでなく評価・分析についても包括して考える"デザイン科学"を学んだ。
「卒業研究では、公園で子どもの遊び方を観察して、あまり使われていない遊具を改良する提案をしました。デザインって、見た目じゃなくて“環境”や“使い方”を設計することなんだと実感しました」
大学院時代には、中国・上海の商社でインターン。この経験から卒業後は海外で働きたいと思っていたがコロナ禍で渡航がかなわず進路を変更。
「どうせなら今しかできないことを」と、偶然見つけた京都・舞鶴の企業で働きはじめた。
そのかたわら、自主的に立ち上げたモノづくりスペース「space kakko」では、展示会を開いたり地域の人と交流を深めたりと、独自の活動を展開。新聞の記事に掲載されるなど「ものづくり」を通して多くの人に影響を与えた。その中でVONTEN代表・金田と出会い、意気投合し、設立メンバーとして参加することになった。
この活動は現在VONTENオフィス内にある”誰もがものづくりを体験できるAKARENGA CREATIVE BASE”に影響を与えた一つに要素である。
地方で働くということ:「なんでもやれる」自由さと、言葉へ定義
都市部を離れ、舞鶴で働くことの魅力について、田中さんはこう語る。
「地方では、役割の境界が曖昧なんです。だからこそ“なんでもやっていい”自由さがある。展示空間を設計したかと思えば、次の日はシステム構築をしている。東京では分業されがちな領域も、ひとりで跨げるのが地方の面白さです」
一方で、職種や専門性が曖昧になりやすい難しさもあるという。その中で大切にしているのは、「言葉の定義」だ。
例えばグラフィックデザインという言葉一つとってもインフォグラフィックス、エディトリアル、UIデザイン等、様々な分野・役割があります。その細かな分野はどれも専門的で重要なのですが、地方では役割が曖昧で分業されていないので、そもそもその細分化された存在自体を知らないということが起こりえているなと感じています。
複数の分野に関わる中で、自身が今後注力すべき領域を見極めるには、各分野を言語化して明確に定義し、それを適切に活用していくことが重要だと考えている。
未来へのビジョン:「どこでも働ける」状態をつくる実験
見据える未来は、「いつでも、どこでも、誰とでも」働ける環境づくりだ。
「テクノロジーを使えば、地方でも都市と変わらない仕事ができます。展示の設営も、3Dプリンタやデジタルツールがあれば遠隔対応が可能になる。そんなふうに“距離”の壁を取り払っていきたい」
地方に住むことが“制約”ではなく、“選択肢”となる社会。そのモデルケースを舞鶴から作ろうとしている。
「まずは自分自身が“どこでも働ける”状態をつくること。その上で、それを他のクリエイターにも広げていけたらと思っています。舞鶴がその実験の場になれば嬉しいですね」
Hiroki Tanaka
Fab Maker
東京都・国立市出身、舞鶴市在住。
大学で環境デザイン・デザイン科学を学び、VONTENには設立時から参加。情報を整理し、グラフィック・プロダクト・空間といった領域を越境しながら、最適な形で伝えることを得意とする。3Dプリンタなどの技術も駆使し、デザインとテクノロジーを融合させた価値創出に取り組んでいる。
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